「こそ―已然形結び」の衰退について -『天草版平家物語』とその原據本との比較から-

다국어 초록 (Multilingual Abstract)

「こそ－已然形結び」が衰退されたのは、已然形結びとは關係なく「こそ」がもっている機能を十分生かしながら表現しようとする目的によったと假定し、それを起こす條件として、終止形專用の語形（形式名詞＋ぢゃ、（つ）らう）の發達と「こそ」に入れ代わる助詞「は」の存在があったことを、原據本平家物語に對する「天草本」の「こそ」の例に注目して立證した。それを具體的にいう。まず原據本平家物語に見られる「こそ」の例に對する「天草本」の例をすべて抽出した。そして、結びに注目するために兩文獻の「こそ-已然形結び」崩れの例に焦点をあわせて考察した。その結果、兩文獻ともに「こそ-已然形結び」崩れの例は、單獨で終止法專用と認められる語が多かった。また、兩文獻ともに終止形 · 連體形が同形である例も見られたが、これにも原據本平家物語から「天草本」になるに從ってほぼ終止法專用になる傾向（原據本平家物語の「けん（む）」「らん（む）」「存ずる」→「天草本」の「（つ）らう」「存ずる」）があった。特に、原據本から「天草本」への推移としてみられる「ぢゃ」は、終助詞的な助動詞である点で注目される。さらに、「ぢゃ」が形式名詞（「もの」、「こと」、「ところ」、「ゆへ」）に下接して文末表現を作って「天草本」に多く使われたことも注意された。つぎに、「こそ」に入れ代わって使われた助詞「は」の存在を、原據本平家物語の「こそ」の例が「天草本」で「こそ」がなくなっている187例から檢討した。その結果、187例中助詞「は」に入れ代わった例が34例で一番多く見られた。これは「こそ」の本來の意味がうすくなっていることに起因するが、その背景に「こそ-已然形結び」を「は-終止形結び」にしようとする編者の意圖があったと判斷した。以上のような條件のもとで、「こそ」に對する「已然形結び」は、終焉をつげ、「こそ」は現在のような使い方を成し遂げたと考える。